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CULTURE / MOVIE
「第19回東京フィルメックス」速攻レビュー
「夜明け」。柳楽優弥、その弱々しさとゆらぎ。

11月17日に開幕した「第19回東京フィルメックス」。A PEOPLE(エーピープル)では、連日上映される作品を鑑賞、できるだけ早くレビューしていく。今回はコンペティション作品「夜明け」(日本)。

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柳楽優弥が、新人監督、広瀬奈々子のみならず、ベテラン、小林薫をも牽引している様に射貫かれた。役柄やポジショニングによるものではない。むしろキャラクター性や立ち位置を鑑みれば、柳楽は本来、小林に引っ張ってもらうべきである。だが、そうはなっていないことに、俳優、柳楽優弥の芝居が次の段階に入ったことをまざまざと感じざるをえない。

身元不明の青年が川で倒れていた。木工所を営む初老の男は、青年にいまは亡き息子の面影を見いだし、面倒をみようとする。青年には後ろ暗いところがあり、男の善意に素直に甘えられない。しかし、男の想いは留まることを知らず、木工所で働かせるどころか、跡継ぎにしようとさえ妄想をふくらませていく。

田舎町ならではの噂話が、秘密を抱える青年を圧迫していく。彼が窮地に立たされれば立たされるほど、男の父性は律動し、やがて暴走することになる。「護りたい」という保護本能の身勝手さ、その先にある支配欲にもつながるおそろしさが、疑似家族未満の関係性をじわじわと照射することになる。

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不安とともにじっと耐える主人公は、あからさまな自己表出とは無縁でなければいけないが、柳楽は人間の心許なさを初々しい愚直さで掴まえ、新生面を見せる。その静謐にして聖なる生命力は本来「護られるべき」ものであるにもかかわらず、芝居と芝居が向き合う場においては、むしろ相手を「護って」いる。その非凡な光景に圧倒された。

つまり、物語を超えた次元で、柳楽優弥が小林薫を「保護している」という転倒を、わたしたちは噛みしめることになる。近年、柳楽は超然とした役どころがつづいていた。暴力的、ではなく、存在そのものが暴力だった。だが「夜明け」でのベクトルは正反対で、弱々しさと揺らぎにしっかりとした輪郭を与えている。この明瞭さが、小林を、監督を、そして映画そのものを、がっしり捕らえて放さないのである。

Written by:相田冬二


「夜明け」(日本)
監督:広瀬奈々子
©2019「夜明け」製作委員会

2019年1月18日(金)より新宿ピカデリーほか全国ロードショー
配給:マジックアワー

第19回東京フィルメックス


A PEOPLE 第19回東京フィルメックス 速攻レビュー

<特別招待作品>
「川沿いのホテル」
「あなたの顔」
「草の葉」
「アッシュ・イズ・ピュアレスト・ホワイト(原題)」

<コンペティション>
「夜明け」
「象は静かに座っている」
「幻土(げんど)」
「幸福城市」
「轢き殺された羊」
「マンタレイ」
「シベル」
「自由行」
「ロングデイズ・ジャーニー、イントゥ・ナイト(仮題)」
「アイカ(原題)」


昨年の東京フィルメックスで上映
「台北暮色」11月24日よりロードショー