*

「メモリーズ・オブ・マイ・ボディ」

CULTURE / MOVIE
新たなる映画を発見する場として
「東南アジア映画の巨匠たち」

国際交流基金アジアセンターが主催する文化イベント「響きあうアジア 2019」の映画部門特集《東南アジア映画の巨匠たち》(共催:公益財団法人ユニジャパン[東京国際映画祭]、東京芸術劇場)は、概して三つのカテゴリーに大別される。

ひとつは、メイン・プログラムともいえる〈東南アジアの巨匠たち〉枠における特集上映。
 90年代インドネシア映画新世代のパイオニアとしてその名を謳われるガリン・ヌグロホ監督の新作「メモリーズ・オブ・マイ・ボディ」(2018)は、これがジャパンプレミアとなる。中部ジャワのレンゲル(女装した男性が踊る女形舞踊)のダンサーを主人公にした同作品は、ヴェネチア映画祭にも招かれた人間ドラマ。地域芸能に根付くLGBTQという異色の題材が大きな注目を集めそうだ。

フィリピンのブリランテ・メンドーサ監督は「キナタイ マニラ・アンダーグラウンド」(2009)でカンヌ映画祭監督賞を受賞している注目株。「アルファ、殺しの権利」(2018)で描かれるドゥテルテ大統領の麻薬撲滅対策は、昨年の東京フィルメックスでの上映でも話題を呼んでいる。見逃しているアジア映画ファンには、日本に不法滞在するフィリピン人を追った第29回東京国際映画祭上映作品「アジア三面鏡2016:リフレクションズ」(2016)共々、追いかけて見ていただきたいところ。

*

ガリン・ヌグロホ

*

「アルファ、殺しの権利」

シンガポールの人気監督エリック・クー監督には長編デビュー作「ミーポック・マン」(1995)のデジタルリストア版がジャパンプレミア。「一緒にいて」(2005)、「痛み」(1994)という長・短2篇とともに楽しみたい。
 おなじみタイのアピチャッポン・ウィーラセタクン監督の「十年 Ten Years Thailand」(2017)、カンボジアのリティ・パン監督の「飼育」(2011)も、それぞれ未来のタイ、過去のカンボジアを鋭い視点で切り取った意欲作。後者は、大江健三郎の同名小説を翻案した作品だけに、大島渚監督の1961年版同名作品と比較しても面白いかもしれない。

*

「ミーポック・マン」

*

「一緒にいて」

*

「痛み」

*

「十年 Ten Years Thailand」

*

「飼育」

ふたつめのカテゴリーとして、これからの活躍が期待される30~40代の俊英の作品を集めた〈次世代の巨匠たち〉という特集上映もある。
インドネシアのカミラ・アンディニ監督の「見えるもの、見えざるもの」(2017)は、第18回東京フィルメックスで最優秀作品賞を受賞した同監督の長編第2作。デビュー作「鏡は嘘をつかない」(2011)でも東京国際映画祭でTOYOTA Earth Grand Prixを受賞するなど手腕が期待されている女性監督だけに、これまた見逃しているファンには押さえておきたい一本。
 タイのナワポン・タムロンラタナリット監督の「ダイ・トゥモロー」(2017)は、これが東京での初上映となる。人生最後の一日を描くドラマ部分と「死」について語られるインタビュー部分で構成されたドキュ・ドラマ風の同作品には考えさせられる人も多いはず。
 インドネシアのエドウィン監督は「動物園からのポストカード」(2012)、最新作「アルナとその好物」(2018)がそれぞれベルリン映画祭で注目を集めている人。第31回東京国際映画祭で上映されたオムニバス作品「アジア三面鏡2018:Journey」(2018)では、東京旅行に出かけた倦怠気味の夫婦を描いている。

*

「見えるもの、見えざるもの」

*

「ダイ・トゥモロー」

三つ目のカテゴリーとして、映画監督を交えたシンポジウムも開かれる予定されている。題して「映画分野における日本と東南アジアの国際展開を考える」。第一部「映画分野における次世代グローバル人材育成について」では、映画プロデューサーの市山尚三と安岡卓治が、山形国際ドキュメンタリー映画祭理事の藤岡朝子とともに登壇。第二部「映画制作におけるコラボレーションの未来図」では、エリック・クー、ガリン・ヌグロホ、ブリランテ・メンドーサら監督陣がスピーカーとして登場。活発な議論が交わされる予定だ。来日に関しては、カミラ・アンディニ、ナワポン・タムロンラタナリットらの監督名も挙がっている。会場内で彼らの声に姿を追い、耳を傾けるのも映画祭の醍醐味。あらゆる「発見の場」を持つことができる好機として、じっくり催事全体を楽しんでみたい。

Written by:賀来タクト


「東南アジア映画の巨匠たち」

7月3日(水)~7月10日(水) 有楽町スバル座・東京芸術劇場