MOVIE / COLUMN
俳優で見る「台湾ニューシネマ×台北暮色」その6
エドワード・ヤン

前回、俳優としてのホウ・シャオシェン(侯孝賢)についての項で、彼がエドワード・ヤン(楊徳昌)監督の1985年作品「台北ストーリー」で主演した話を紹介した。それとは逆のケースでエドワード・ヤンはホウ監督の「冬冬の夏休み」(’84)で主人公トントン(冬冬)の父親役として登場している。このことよく知られていると思う。とはいえ、最初と最後にちょっと顔を出している程度。ほかにもいくつかの映画に出演しているが、いずれもゲスト出演にとどまっていて、これらの作品から俳優としてのエドワード・ヤンについて語ることは難しい。それでも、彼が出演した作品を通して、当時の台湾映画界の一端を垣間見てみるのも面白いかもしれない。

1984年のクー・イージェン(柯一正)監督作品「我愛瑪莉」は、おそらくエドワード・ヤンの最初のゲスト出演作のようだ。未見のため詳細ははっきりしないが、三つ揃いのスーツ姿で両手をポケットに突っ込み、二人の欧米人と立ち話をする場面写真を見る限り、リー・リーチュン(李立群)演じる主人公の上司もしくは仕事相手、といったところかと思われる。サラリーマンの悲哀を描いたこの作品にはホウ・シャオシェンも同僚とおぼしき役柄で出演している。リー・リーチュンはヤン監督の「恐怖分子」(’86)で妻との間に溝ができている主人公を務めた俳優。資料によってはクー監督の前年の作品「帶劍的小孩」にゲスト出演したと書かれているものもあるが、この映画には監督の姿を見つけることはできなかった(ひょっとすると見落としていた可能性もあるが)。

エドワード・ヤンの“演技”らしきものを見られる唯一の作品は香港映画の「初恋無限Touch」(’97)だ。ジジ・リョン扮するヒロイン・ステファニーの母の再婚相手として、映画の最後の庭園結婚式のシーンにほんの少し登場する。貴重なのはセリフが二言あるという点。「ママによくしてね」とステファニーから言われて「わかった、わかった」と返し、「娘にもっとよくしないと」と言う新婦には「確かに、確かに」と優しく微笑む。さらに、ブーケトスを促したり、写真撮影では新妻にバックハグをしたりと、クールなイメージの彼のちょっとお茶目な一面が見られる。どのような経緯でこの作品に出演することになったのかが気になるところ。続いて、1998年の「Jam」にはヤクザのボス宴席に招かれて食事をする客を務めた。これが初の長編監督作となったチェン・イーウェン(陳以文)が、彼のスタッフを長年務めていたことからの縁だ。

そして、遺作となった「ヤンヤン 夏の思い出」(’00)では自身がピアノ教師役で出演。実際の妻でピアニストのカイリー・パン(彭鎧立)が弾くチェロと共にコンサートで演奏するシーンも描かれている。また、自分が手がけた映画の中で自ら登場人物の声を吹き替えたことでも知られる。まず「海辺の一日」(’83)で、シルビア・チャン(張艾嘉)が演じたヒロインが結婚後に心を寄せる作家ピンピンに始まり、「牯嶺街少年殺人事件」(‘91)や「カップルズ」(’96)でも主要人物の声を彼自身が吹き替えたという。映像はもちろんのこと、音楽や音に対するこだわりが特に強かったエドワード・ヤン。そういえば、「台北ストーリー」で出会い最初の妻となった歌手ツァイ・チン(蔡琴)といい、二人の妻がいずれも音楽人なのは偶然なのだろうか。

文:小田香


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